『月記』

小瀬村卓実の備忘録。キャリア論と経営論を残します。

若手転職におけるAIは「組み分け帽子」となる

今回は、若手転職業界におけるAIの価値について考えていきます。

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タレントマネジメント領域ではHRtechのサービスが数々台頭している一方で、転職支援領域でのAI活用はまだまだ進んでいない。

 

この記事では、転職者とエージェント企業、それぞれの観点での若手転職の実態とAIがもたらす変化について書いていく。

 

人材業界は若手軽視?

20代で転職活動をした方ならわかるかと思うが、

「エージェントに会うなり、すぐに求人を提示された」

という感想を聞くことが非常に多い

 

それも、自分のやりたい仕事と言うよりは、

今までの仕事に似ていて、自身が戦力になりやすそうな仕事を紹介される傾向にある。

 

他にはないかと聞いても、

「この辺りの求人しか応募できるものがない」

と言われると、転職者としては反論しにくく、ガッカリして帰る方も多いだろう。

 

こういった顧客対応の裏には、人材業界のビジネスモデルが作用している。

 

エージェントや転職サイトの多くは、年収に紐付く成果報酬モデルでマネタイズしている。

そのため、若手は人材業界から見て、単価も安く経済性が釣り合いにくい対象と思われがちである。

 

経済性を成り立たせるために、人材業界全体として若手の転職支援は、

工数をあまりかけずにグロスで大量に扱うと言う方向に進化してきた。

 

だからこそ、初回の面談で求人を提示し、対策があまり必要ないような、

今までの延長線上にある仕事を紹介するエージェントが多くなっている。

 

もちろんエージェントの中には、

「若手こそキャリア支援が必要である」

という問題意識を持ち、質の高いサービスを提供する会社も存在する。

 

しかしそういった企業は、領域特化型である、小規模なブティック系エージェントに多い。

せっかく親身になってくれるエージェントに出会えても、得意領域と希望転職先がフィットしない場合もある。

 

ただでさえ転職者に情報が入りにくいこの人材業界において、

転職者が自分の相談すべきエージェントに出会うのは多くの労力を要する。

 

現職で活動をしながら行うことが前提である転職において、そこまでの手間をかけられる人は少ない。

結局誰に相談しても良いか分からず、今と似た仕事から選ぶしかないという実態がある。

 

AIは「組分け帽子」になり得る?

具体的に転職業界にAIがもたらす価値と言うのは、

「自分に合う仕事へのアクセスがしやすくなる」

ということであろう。

 

技術発展により度合いは変わるが、

「自分が受けられる企業はどこなのか?」

「自分に合っている企業はどこなのか?」

「誰に相談すれば良いのか?」

といった問いへの答えがより簡単に手に入る。

 

いわば、キャリアの「組み分け帽子」としての役割である。

 

AIの典型的な活用方法の一つとして、属人的な優れたノウハウを汎用化すると言う方法がある。

医者による判断をAIで、といった専門家の知見を多くの人に簡単に届けることがポイントだ。

 

人材業界のキャリアカウンセリングは、まさにこの典型的な事例である。

 

転職活動のモバイル化が進み、キャリア情報へのアクセスのしやすさはより重要になってくる。

 

AIは、自身の要望や価値観といった好みに関する情報と、経歴やスキルといった応募要件に関わる情報、この双方を踏まえて理想のキャリアへのアクセスをより容易にするだろう。

 

一方で、アニメや小説になるようにAIが人の職業を決めると言った世界はしばらく先になるだろう。

 

エージェントとして多くの転職者を支援していく中で、転職には、その方の自由意志が非常に重要であると感じている。

今後変わっていく可能性はあるが、今のユーザはAIに決め付けられることを許すほど、AIを信用してはいない。

 

しかし、現段階でもAIは転職活動をより手間のなく、有意義にすることには十分貢献するだろう。

 

エージェントは工数戦争から脱却する

このAIによる効率性の向上は、実は我々エージェント企業にも大きなメリットをもたらす。

 

内情が知られていない業界だが、エージェント企業は工数戦争に苦しんでいる。

 

転職希望者の方と会うために、スカウトを1通ずつ手作業で送るのがスタンダードとなっているが、返信率は1%に満たないことも多い。

 

100通も連絡して1人からも返ってこないコミュニケーションツールが今の時代にあるだろうか。

(丁寧にはてブでご指摘くださった方がいたので追記:各DBでもちろん返信率は異なりますが、若手向けDBになればなるほど返信率は落ちる傾向です。各DBの批評になるため個別名はあげませんが、DB別の平均返信率は、0.5%-8.0%ですね。20%の返信率は素晴らしい数字)

我々エージェントは、転職者の方が携帯をチェックする時間を狙い、1ヵ月に200通以上のスカウトを送っている。

 

スカウト作業と双璧をなす非効率性が、転職者とのミスマッチである。

エージェントには、それぞれ得意領域があり、そこから外れる転職者には十分な支援ができない。

 

スカウトの段階で出来る限りターゲットは絞っているものの、若手の場合は希望職種が幅広く選択されていることも多く、いざ会ってみると支援対象ではない方であることも多い。

10人の方と会い、1人決まれば良いエージェントだと言われている。

 

このスカウト送信とミスマッチを乗り越える現状の手段が、「マンパワー」である。

 

AIがそれぞれの転職者の適性や要望によって一時的な振り分けを行うことにより、エージェントとしての本来的な役割であるキャリアカウンセリングや転職市場の情報収集に時間を使うことができる。

 

当然AIによるマッチ率が向上は、採用企業にも同様の良い作用を生み出す。

 

中途採用の内定率は数%水準となっていることが多く、人事や現場の方の工数肥大はどの企業においても悩みになっている。

 

AIの本質が「判断」にあるとすると人材業界はAIの進化が発揮されやすい業界である。

AIが一次的な「組み分け帽子」としての役割を果たすことができれば、転職者・エージェント・採用企業全ての良い価値を実現できると考えている。

 

若手転職を支援する企業として、より良いキャリアの実現を「技術」と「人」の両面で支援できるよう取り組んでいきたい。

 

本日は以上です。